Another moonlight
昨日の夕方、サロンの定休日で仕事が休みだったユキが開店前にバーを訪れた。

あれからどうだとマナブが尋ねると、ユキは思い切り眉間にシワを寄せて首をかしげた。

「どうもなにも…普通。」

「普通?」

「そう、普通。」

ユキの言う普通が一体なんなのか、マナブにはさっぱりわからなかった。

「アキと会ってんだろ?」

「会ってるよ。仕事の後に御飯食べたり、ここでお酒飲んだり。今日も多分、仕事終わったらここに来るんじゃないの?」

「え?約束とかしてねぇの?」

「してねぇの。私が仕事終わる頃にサロンにフラッとやって来る。飯でも食うかって。」

マナブはわけがわからず首をかしげた。

「なんだそれは?」

「さぁ…。」

ユキもどことなく不服そうだ。

「そういや…なんかアキに言いたいこととか聞きたいことがあるって言ってたじゃん?あれ、どうなった?」

「どうもなってないよ。私もアキもなんも言ってないし、聞いてない。」

「なんも変わってねぇじゃん。」

「そう。なんも変わらないよ。」

ユキは眉間にシワを寄せたままビールを飲み干し、タバコに火をつけた。

「いい加減、男ならハッキリしろっての…。」

ため息混じりに煙を吐きながら呟いたユキの本音を、マナブは聞き逃さなかった。



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