Another moonlight
サロンの中に入ると、ユキはぼんやりした様子でカウンターの中に座っていた。

ユキの顔を見た途端、鼓動が急激に速くなるのをごまかすように、アキラはできるだけいつも通りに声を掛ける。

「こんにちはー。サトミ宅配便でーす。」

「あっ…アキ…ごくろうさま。」

アキラにはユキの顔がどことなく疲れているように見えた。

「どうした?調子でも悪いのか?」

「うん…そんなことはないけど…。」

ユキは曖昧な返事をして少し笑って見せた。

そんなことはないと言いながら、ユキの目の下にはうっすらとくまができて、なんだか少しやつれているような気がした。

アキラは伝票を差し出して、目の下を指さした。

「目の下、くまができてんぞ。寝不足か?」

「うん…。化粧で隠したつもりなんだけどな。そんなに目立つ?」

「ああ。どうした?なんかあったか?」

「いや…大丈夫。遅くまで新しいネイルのデザイン考えてただけだから。」

ユキは伝票にサインをして、アキラに手渡した。

「あんま無理すんな。」

「うん…。」

やはりユキの様子がおかしい。

いつもは新しいネイルのデザインを考えて寝不足になっても、ユキは好きな仕事だから平気だと言って楽しそうにしている。

「なぁ…。」

その時、アキラの言葉を遮るようにサロンの電話が鳴った。

ユキはビクリと肩を震わせ、顔を強ばらせておそるおそる受話器に手を伸ばした。

「はい…。」

ユキはサロンの名前を言うことなく受話器を置いた。



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