SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし


「……苦しい、の?」


「……え?」


「今、苦しんでるって言った。かおるは、なにか悩んでるの?」


あたしは薫に聞いてみる。


「……ああ、」


薫は小さくうなずくと、遠くの景色に目をやった。



「……悩んでた。でも、それは今に始まった事じゃなくて、ずっと根深いものなの」


言葉に悲しさが入り混じる。

何故だか空気が重くなり、あたしの心を締めつけた。


「…………」


何も言えず、あたしはじーっと薫を見る。

すると、


「……あ、でも今は平気だから」


薫はニコッと笑ってみせる。


「……不思議。 ほんと、世界が変わったっていうか……」


「……え?」


「これを身につけてから、本当にあたし調子がいいの」


再び数珠を陽にかざし、薫は声を弾ませた。



「霊にはもちろん効果絶大だけど、それだけじゃなくて……なんか全てがうまく回り出した様な気がしてて」


「……? どういうこと?」


「……あたし、今までずっと孤立してたの。家でも学校でも、どこにも自分の居場所がなくて。でも、」

"ピコン”

ふいに聞こえる短い音。


「あっ、ちょっとごめんなさい」


薫は急いで自分の電話のやつを取り出した。


「最近、よく連絡をくれる人なんです」


「……?」


「見た目は不良っぽいけど、とても優しい人で、まだ知り合ったばかりなのに、彼といるととても気分が安らぐの」


はにかみながら、薫はせっせと指を動かした。
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