SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
————————————————
————————————————

そして、まだ静かな午前のアジト。



「……奏太ね、あの家、あんまり好きじゃないみたいなの」


そうじする陽菜を手伝いながら、あたしは話を聞いていた。


「変だよね。奏太の家なのに、私たちの方が自由に使って、奏太はたまに帰るだけなんて」


「……ふうん」


あたしはアジトの奥を見る。

昨日はそのまま “ 幹部の間 ” に、奏太は泊まったようだった。


「……でも、どうして?」


自分の家が好きじゃないとか、そんなやつ、あたしは聞いた事がない。


「……それが分からないの。とても聞けるような雰囲気じゃないし」


手を止め、陽菜は苦笑した。


「どういうこと?」


「……ん~、ほら、奏太って人を寄せ付けない雰囲気があるでしょ? あんまり自分の事も話したがらないし。 聞こうとすると警戒して、堅く口を閉ざしてしまうの……」


「……うん?」


「前にね、思いきって家の事とか家族の事を聞いた事があるんだけど……なんか睨まれちゃって。 あの気迫で睨まれると私……なんにも、言えなくなってしまうの」


「……え?」


あたしは意味が分からない。
奏太には何回も睨まれてるけど、だからって別にどうって事はない。



「だから、昨日は本当にびっくりした。余裕がないっていうか、感情のまま、あんな風に喋る奏太は初めて見たし、美空ちゃんだって……」


「……?」


「……すごいね。奏太に何を言われてもひるまないで、堂々と普通に会話できるんだもん」


陽菜はぼーっとあたしを見つめた。


「……そう?」


あたしは昨日の事を思い出す。

普通に会話なんて、全然、出来てなかったと思うけど。

首を傾け、あたしは床に手を伸ばす。

散らばっていたマンガ本を片付けた。
< 384 / 795 >

この作品をシェア

pagetop