SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし

"助けたい奴がいる"


一ノ瀬の電話で無理やり呼び出された黒木は、まさに疑心暗鬼のかたまりであった。

それが、ひと目少女を見るなり、その態度が豹変したのだ。


(本当につかみどころのない奴だ)


一ノ瀬の視線に気付くと、黒木は親指を立て、軽く握った右手をあごに当てた。

ニッと笑みをこぼすと、黒い肌と無精ひげのせいで余計にその歯が白く見えた。


「指揮官! やはりこの少女は危険です!」


黒木の様子とは逆に、隊員たちは慌てて防御の姿勢を取る。


「ああ⁉︎ 誰がキケンだってえ⁉︎ 万里はなぁ、全然キケンなんかじゃね~よ!」


銃を撃つように右手を突き出し、黒木はズイッと隊員たちに詰め寄る。

黒木は少女に並々ならぬ感情を抱いているようだった。


「まったく。得体の知れないヤバイ奴は放っておくんじゃなかったのか?」


視線を少女に向けながら一ノ瀬が言う。


「はあ~? いつ、ダレがそのようなことを? 一ノ瀬さん、オレは本当はあ、まじめ~な人間なんですよ? いつもあなたの命令にはチュージツに従ってるじゃあないですかあ~?」


「おまえ、どの口が言うんだ 」


その時、クシャッと紙を踏みしめる音と共に、さわやかな風を引き連れ、一人の男が一ノ瀬と黒木の前に現れた。
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