SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし

「なんだ帰って来たのかよ」


「悪い⁉︎ てか、ここオレんちだし! そっちこそ何で毎日いる訳⁉︎」


湧人はドカッと腰を下ろした。


「湧人。今日遅かったね」


「……うん、ちょっと……」


少しだけ目を泳がせ、湧人はさっと手を伸ばす。

当たり前のようにあたしの宿題をやり始めた。



「つーか、何でおまえ高校の問題分かるんだよ!」


「しょうがないだろ、分かるんだから!」


「まれに見る天才少年かよ!」


「そんな事より、もっとみくの字を真似て書きなよ! 手伝ったのバレたらみくが怒られるだろ! もっと右上がりに!」


「……うっせえなぁ」


手を動かしながら、二人はいつものように言い争う。


「……おい、誰の宿題だ。ぼーっとしてねえでおまえもやれよ」


「あ〜。 うん」


あたしも再びシャーペンを手にした。

ところが、


「…………」


……あ、れ……


ESPがまったく使えなくなっている。

完全に不安定になっていた。


「……だめだ……」


ため息をつき、水色バックをゴソゴソあさる。

メガネを見つけてかけてみた。


「……なんだその黒ぶち……」


不思議そうに透が言う。


「うん。だって見えない。メガネ見える。答えも見えないかなぁ?」


「はあ⁉︎ なんだって⁉︎」


「不安定。もう見えない分からない」


「ああ⁉︎」


「……みくっ、いいよっ! オレ代わりにやっとくから!」


「……おいっ! おまえアホだろっ!」


「……なっ! みくはアホじゃないっ!」


「発想がすでにアホだろ! メガネかけて答えが見えるか! このどアホ!」


「違うって言ってるだろっ!」


「…………」


二人のやり取りを、あたしは黙って聞いていた。
< 487 / 795 >

この作品をシェア

pagetop