SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし


「……何してる……」


「変装しようと思って。だって、あたしがあたしじゃだめって事でしょ?」


「……は?」


変装道具を一式取り出す。

テーブルに置いてあった鏡を見て、ウイッグをさっと着けてみた。


……うん。


黒のさらさらストレートロング。
ついでに黒ぶちメガネもかけてみる。


……おお。


おもわず鏡を凝視する。

そこには真面目そうな雰囲気の、まるで別人みたいな自分がいた。


「……⁉︎」


驚いたように奏太がじっと見つめてる。


……えっと、他にもいろいろ入ってる。


付け鼻、付けヒゲ、付けまゆ毛……

付け耳、付けアゴ、付けホクロ……

血のりやシールの貼り付ける傷まで……


——ペタペタ……


あたしはその全部のパーツを付けてゆく。


「……おいっ!!」


奏太があたしの手を止めた。


「……っ……おまっ……なんなんだそのフザけた顔は! 仮装パーティにでも行くつもりか!」


「……?」


「……その、黒髪と眼鏡だけで十分だ……」


笑いを堪えたような顔をして、奏太はあたしにそう言った。


「……ふうん」


あたしはペリッと口ヒゲをはがす。

言われた通り、黒髪とメガネの格好で落ち着いた。



「……すげえな。一気に純和風っつーか、まるで同一人物とは思えねえ……」


やっとソワソワの取れた奏太が、今度はじっくりあたしと向き合う。


「……にしても、普通持ち歩くか? 変装道具なんて」


「うん」


「変装道具だけじゃねえ。チラッと見えたが、何やらいろいろバックに詰め込んでんな」


「うん」


「だが、それも何か理由があっての事だろう」


「…………」


「おまえは何か普通じゃねぇからそんなモン持ち歩いてんだろ?」


「…………」


「言えよ。ココに来たって事は、おまえが何者かオレに話しに来たってことだろう」


「……あ〜、」


あたしは右手を握りしめる。
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