SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし

「……友達だったのに、こんな……。 せめて話を聞くぐらい……」


「いいんだ。これが当然なんだ。それだけの事したんだ、あたしが」


「……でもみくはっ! みくにだって事情がっ……みくは悪くなんて——」

「——いいんだ」


あたしは声をさえぎった。


「分かるから。あたし、よく分かる」


「……え?」


「すごく怒った時の感情。 前にあたしもああなった。 怒りと憎しみがいっぱいになって、自分が全然止められないんだ。 自分なのに、自分じゃないんだ……」


「……っ……」


「だから二人は悪くない。悪いのは——」
「——みくっ!」


今度は湧人があたしを止めた。


「その話はもうっ……とにかく、オレが明日話してくるから。ちゃんと話せば二人もきっと、だから……」


「…………」


「今日は遅いし、もう寝よう?」


そう言って湧人は話を終わらせる。

あたしは、作り笑いを浮かべる湧人に「うん」と素直に頷いた。


——————————————
————————————————
——————————————

——翌日。


「……本当に、平気?」


あたしは、学校へ行く湧人を玄関で見送っていた。

湧人は不安気な表情だ。

確認するように、何度も同じ事を聞いてくる。


「大丈夫。透も薫も学校行った。今日はここへは来ないはず」


「……でも、」


「もう時間だ」


あたしは湧人の背中をグイッと押す。


「……じゃあ、学校終わったらオレ、二人と話してくるから」


仕方なく湧人は前に歩きだした。


「……はあ、」


あたしは一人ため息をつく。

湧人にウソをつくのは大変だ。

気を抜けば何でもすぐに見抜かれてしまう。

小さくなる湧人の背中を見つめながら、あたしは覚悟を決めてゆく……


————向き合わなければならない


透と、薫と、自分と、自分の罪と……


他の誰でもない、あたしが向き合わなければならないのだ。受け止めなければならないのだ。


次第に広がる胸のザワつき……


嫌なものを感じながら、あたしは静かに時を待った。
< 670 / 795 >

この作品をシェア

pagetop