心外だな-だって世界はこんなにも-
ACT1 小説家になれない苦悩





兄貴はどうも私のことが好きで、好きで、たまらないらしい。



趣味は釣りとサッカー観戦のアウトドア派。そんな私がかれこれ5年ほど自分の部屋に引きこもって、昼夜を問わず、机に向かっているものだから、不思議で、心配で、たまらないらしい。



私はこの5年、ずっと部屋に引きこもって小説を書いている。これは、小説家になるためであって、トイレとお風呂以外は大抵、机について、原稿用紙を前に、ペンを走らせている。



食事は、いつも部屋まで持って来てもらう。これは私が引きこもる前、お母さんにお願いしたことだ。



一日三食、お盆に乗せて、わざわざ急勾配の階段を上って持って来てくれる。消耗品がある時は、メモ書きした付箋をお盆に貼っておけば、食事と一緒に運ばれてくる。



まるでホテルのルームサービスのようなシステム。大した文豪である。しかし、生憎私は生まれてこの方、一度も小説というものを書きあげたことがない。形だけの文豪であった。



そのコンシェルジュの役目がつい最近、兄貴に代わった。そして、そのことは、私の執筆作業に支障をきたすこととなった。



____ほら、まただ。



ドアの方へ目をやると、隙間がほんの少し開いていて、そこから縦並びになった兄貴の切れ長な両目が見える。




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