彼の瞳に独占されています
「お疲れ様です」と声を掛けると、テーブルに置かれた黄色い長方形の箱が目に入る。

永瀬さんはそれを指差して、私が思ったことと同じことを言う。


「それ、山浦さんからの差し入れ」

「やっぱり。さっき聞きました」


言いながら、興味津々で箱を開けてみると、マフィンらしきカップケーキの上にクリームやフルーツがこんもりと乗った、カラフルでおしゃれなスイーツが顔を覗かせた。

これは、女子はときめかないわけがない。無論、私のテンションも急激に上がる。


「わぁ~、すっごい可愛いカップケーキ! 山浦さん、急にどうしたんだろう」

「誕生日だからってわざわざ買ってきてくれたみたいだよ。気を遣わせて申し訳ないな」


ほんの少し眉を下げて笑う永瀬さんの言葉で、今日が何の日か思い出した私は「あっ!」と声を上げた。

七夕を明日に控えた今日は、永瀬さんのバースデーだ。


「そういえば、永瀬さん今日誕生日でしたね! おめでとうございます。すみません忘れてて……」


肩をすくめて謝ると、彼は片手を振って軽く笑い飛ばした。


「全然いいんだよ、そんなの気にしなくて。もうこの年になるとめでたくもないしね」


苦笑してパソコンに向き直り、画面を閉じる彼の背中に、私は穏やかな声を投げ掛ける。

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