ポプリ
 龍娘は今、2歳を過ぎたばかりの孫の遊び相手をしている。

 息子の霸龍闘と嫁のリィファは、田中夫妻に次ぐ『番のエージェント』として活躍しているため、たまに孫を預けられるのだ。

 無論、龍娘とて暇ではない。

 が、かわいい孫のためならば仕方ない。

 孫とともにやってくる、嫁の手製中華弁当(本日は白飯、海老のチリソース、黒酢の酢豚、青椒牛肉絲、ナスの中華味噌炒め、油淋鶏(ユーリンチー)、シウマイ、春巻き、カニ風味蒲鉾とクラゲと錦糸玉子の酢の物、ザーサイ、デザートにマーラーカオ(中華風蒸しパン))が目当てというわけではない。決してない。


 孫は今、龍娘と一緒に庭で『調息』をしている。

「ふー、ふー」

 愛らしい声とともに息を吐き出す姿に、幼き頃の子どもたちの姿を重ね合わせ、龍娘の目は無意識に細まる。

 やがて孫は肩まである胡桃色の髪をふわふわ揺らしながら、龍娘を見上げ、両手をあげた。

「にゃんにゃぁー、だっこぉー」

「なんだ、もう疲れたのか? だらしがないな」

 そう言いつつ、龍娘は孫を抱いてやる。

『にゃんにゃん』。

 昔、異世界からやってきた勇者と姫が、龍娘のことをそう呼んでいた。

 勇者は母に似ているという理由で龍娘に度々抱きついてくる破廉恥者で、勇者嫁は『にゃんにゃん』というおかしな渾名をつけて卒業していった。

 その子どもたちが再び天神学園にやってきて龍娘の子どもたちと出会い、友情を深め、そして婚姻を結ぶことになり。

 そうして今、目の前にこの子がいる。

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