ポプリ
 そんな風にシオンがちょっとやらかしている頃。

 花龍は水の精霊ウンディーネたちに手伝ってもらい、庭の花々に水やりをしていた。

 今日は龍虎軒の手伝いを休み、家の掃除や洗濯をしていた。庭の雑草も抜いて、こうして水を撒いて。綺麗になった庭を潤す水しぶきはきらきらと輝いて、小さな虹を作っている。

 その虹の上をウンディーネたちが楽しそうに滑っていくのを、ぼんやりと、どこか遠くから眺めている。

 毎年夏休みも地球とミルトゥワを行き来して、花龍とも頻繁に会っていたシオンが今年はいない。母であるリィが作ってくれた魔道具の指輪で手紙のやり取りは出来るが、それもったく来ない。準成人の儀、初めての公務、そして婚約の取り交わし。きっとそれらが忙しいのだと、花龍からもしなかった。

 シオンのいない夏休みは、灼熱の太陽と賑やかな蝉の鳴き声の下にいても静かだった。友人たちと語り合っていても、修行をしていても、心のどこかが寒かった。



 シオンが一学期最後の日に見せた、まったく感情の篭らない瞳。

 あんな目を見たのは初めてだった。それだけ傷つけたのだと、花龍は後悔しきりだった。

 何度も後悔して、けれどもやはり、辿り着く答えは同じで。どんなにシオンに想われても、兄弟のような感情以上のものを彼に返してあげることは出来ない。あの日、花龍は今のままでいようと、祈るような気持ちで彼を見ていた。

 でもそれは間違いだった。

 あの目を見たときに、もう元には戻れないのだと悟った。

 ずっと一緒にいて、仲良くしてもらって、楽しかったのに。もう今までのように他愛無く笑い合い、楽しい時を過ごすなんてことは出来なくなったのだ。

 当たり前だ。傷つけたのだ。拒んだのは自分なのに、同じ位置に戻ろうなんて虫が良すぎる話だった。そのことにシオンの感情の篭らない目を見るまで気づかなかった。シオンなら笑って許してくれると、心のどこかで思っていた。

 なんて、愚かな。

< 159 / 422 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop