ポプリ
「マリアベルが、そう言ったのかい?」

「うん。……だから、アイシャとの婚約、破棄してくれないか。俺もなかったことにしたい」

「そうか……あの子は、私のことを」

 皇太子はふう、と深く息を吐き出した。

 それから、随分と長いこと沈黙していたと思う。彫像のように綺麗な顔をしているからなのか、彼の顔を見つめていると時間が過ぎるのを感じられない。

 と。

 突然、皇太子がくつくつと笑い出した。

「……リュミエール?」

 思わず名前を呼ぶと、彼はくつくつと笑う顔を片手で隠しながら、もう片方の手で謝罪の意を表した。

「すまない。笑いが堪えきれなかった。……嬉しくて」

「っ、じゃあ、いいんだな!」

「ああ、アイシャとの婚約は破棄する。神殿に文句は言わせない。マリアベルは私のものだ」

「……」

 なんかちょっと怖い笑みになったよこの人。

「ああ、シオン。良かったな。君がこのままマリアベルを娶っていたら、私はどんな手段を使ってでも君を闇に葬るところだった」

「えー、マジかよ」

「ありがとうシオン。マリアベルの本音を届けてくれた君に感謝する」

 腹黒い笑みを浮かべる皇太子に、シオンの背筋が震えあがった。でも結局葬り去られることはなかったのでまあいっか、と流したあまり深くは考えない能天気の血筋。

 しかし友であるマリアベルのことは少し心配になった。

「皇太子……マリアベルはしあわせにしてくれよ?」

 そう言ったら。

「誰に物を言っているんだ?」

 魔王の笑みを返された。

 ……マリアベルに何かあったら責任を持ってこの魔王を打ち倒そう。シオンは固く決意した。


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