ポプリ
 その日、シャンリーは人生で最大のショックを受けていた。

 人生といっても、彼女の生きた年数はたったの7年である。たかが7年、されど7年。子どもの7年は長い。もう私大人だよね、と勘違い出来るくらいには。

 そのシャンリーに自己同一性崩壊の危機が今、襲い掛かろうとしていた。


「あ、紫陽花ちゃんが、ふ、服をっ……!」

 登校してきた従姉、柾紫陽花が、服を着てきたのだ。

 ……人目のある屋外において、服を着ることなど当たり前のことである。

 けれども柾紫陽花という人間は服を着ないのだ。露出狂なのか? いや、違う。れっきとした柔術の達人である彼女は、敵に襟や袖を取らせないという大義があって、あえて服を着ないのである。……たぶん。

 いつもセクシーなマイクロビキニを着用し、惜しげもなく白く肌理細やかな肌を晒す彼女は、シャンリーの憧れであった。

 あのように堂々とした、我が道をゆく人間でありたい。

 破廉恥に生きる人間にとって、柾紫陽花はまさに理想。故郷のユグドラシェルに匹敵する神なのであった。

 それなのに紫陽花は、服を着てきた。

 制服として着ていても違和感のない、清楚なサテン生地の白いブラウス。首元には細い黒のリボンタイが結ばれ、弾むように歩く紫陽花と一緒に楽しそうに揺れていた。

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