ポプリ
 もうすぐハロウィンがやってくる。

 弟の麗龍や従妹のシャンリーは、今から「トリックオアトリート!」と言ってお菓子を貰う気満々である。そんな彼らのためにもおいしいお菓子を用意しなければならない。休日、花龍はキッチンに篭って色々と作っていた。

 一口サイズのパンプキンパイ、チョコペンで蜘蛛の巣を描いたカップケーキ、両親の思い出が詰まっている月餅。

 色々と作ってみたが、かなりの数を用意し、大勢に配ることを考えると、やはりジャック・オー・ランタンの形のクッキーが最有力候補だろうか。

 家族用には大きなパンプキンパイを焼いて、その上にメレンゲでおばけを作って飾ったらかわいいだろうか。

 そんなことを考えながら、ボウルに入れたバターと砂糖、卵黄を泡だて器で混ぜていた花龍は、ふと、思った。


 先生は、食べてくれるだろうか。

 ……と。


 ヴラドはニンニクが好きなようだ。吸血鬼なのに。

 それならば、ガーリッククッキーはどうだろうか。砂糖は使わないので甘くない。チーズも入れればワインにも合う。モノによっては日本酒にも合う。

 そういえば、お酒は飲むのだろうか。

 今度聞いてみようか、などと思いつつ、他に好みのものはあっただろうかと考える。

 あまり多くはないヴラドの情報を頭の中に思い浮かべていた花龍は、かき混ぜていた手を止めた。

 泡だて器を握っていたその白い手を広げてみて、ジッと見つめる。

「……血」

 ヴラドは吸血鬼だ。ニンニクも好きだろうが、一番はきっと血だ。それも花龍の血を好んでくれている。


 私の血を入れたら喜んでくれるかな。


 これがシオンや麗龍たちに作るものであれば、そんな思考は欠片も出てこなかっただろう。だがしかし、相手は血が主食の吸血鬼。もしかしたら、なんてことを考えてしまっても仕方がないかもしれない。

< 247 / 422 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop