ポプリ
 花龍はくるくると指先を回した。

《ほーい》

 指先に浮かんだ碧色の魔法陣から飛び出してきたのは、風の精霊シルフ。

「ねぇシルフ。かまいたちみたいに出来る? ちょっとだけ指を切りたいの」

 花龍は自分で切ってもいいのだが、自傷してしまうと精霊たちが心配してしまうから、シルフに頼んだのだ。

 案の定、葉っぱの冠を被った小さな精霊は眉を顰めた。

《えー、それって、花龍を傷つけろってことー?》

「うん。でも、その後ですぐに治せるから、痛みも傷口もなくなるよね?」

《出来るけどぉ……》

 シルフは大好きな花龍を傷つけることに抵抗を示している。

「痛みがないようにしてくれたら、助かるんだけど……」

《それは出来るよぉ。某大陸の妖怪なんかより、綺麗に切って、ぜんっぜん痛みなんか感じさせなく出来るよぉ》

 エライでしょ? と首を傾げるので、花龍は頷いてその小さな頭を人差し指で撫でてあげた。

 それで気を良くしたシルフは、元気よくくるくると回った。

《分かった。綺麗に切って、綺麗に治してあげるね!》

 そんな風にシルフが風を巻き起こそうとすると。

 別の風の力が介入してきて、花龍が召喚したシルフは強制的に還されてしまった。

 花龍は驚きに目を丸くして、キッチンの入り口へと目をやった。そこには少し怖い顔をした母、リィが立っていた。

「……母上」

「花龍」

 リィはすっと花龍の目の前にやってきて、娘の手を取った。それからボウルに入っているクッキーの生地に目を落とした。

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