ポプリ
 プティ・ランスロットは兄のシオンから譲り受けた、銀色に輝く二刀のダガーだ。

 良く手入れされたその柄を握りしめると、シャンリーの小さな手に吸い付くようにしっくりと収まる。

 シャンリーは勇者を目指していた。

 ミルトゥワの危機を救った英雄、祖父フェイレイのような、誰からも尊敬され、誰をも慈しむ、優しい勇者になるのだと。『グリフィノー』になるのだと、幼い頃から周囲に言い聞かされ、シャンリー自身もそのつもりで毎日修行をしてきた。

 けれども今、シャンリーは立ち上がる。

 両腰に差したプティ・ランスロットの重みを感じながら、目指すのは兄、シオンの執務室。

 休日は父の執務の手伝いに修行にと、忙しくしているシオン。

 その彼のいる執務室のドアを、バアン、と派手に開け放つ。

 中にいたシオンは深海色の瞳を僅かに見開き、手にしていた書類から顔を上げた。

「どうした、シャンリー」

 驚きはしたものの、妹の訪問が嬉しいのか、シオンは深海色の瞳を細める。

 そんな兄に向かって、シャンリーはビシッと人差し指を突き刺した。

「兄上! 私、シャンリー=リザ=ユグドラシェルは、リザ=ユグドラシェル家次期当主の座を賭けて、兄上に決闘を申し込みます!」


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