ポプリ
 兄は何もしていない。ただ、その強い覇気を見せつけただけだ。あの『グランド・ランスロット』を発動させてもいない。その前も前の段階。それなのに、シャンリーは戦意をごっそりと持っていかれた。

 ──ああ、あの人たち、凄いんだ。

 おぼろげに、そんな思考が湧いてきた。

 シオン一味の人たちは。タイマントーナメントで兄と戦った人たちは、この覇気を受けてもなお、向かっていけるんだ。

 凄い。
 
 ただただ、そのことに感動した。

 同時に、悔しくなった。

 自分の意思を貫くことも出来ず、尻もちをつくしか出来ない自分が。

「その程度で、リザ家当主が務まるか」

 その兄の言葉に、シャンリーは唇を噛む。

「父上には俺から報告しておく。……自分の部屋に帰れ」

 もう決闘は終わったと、シオンは椅子に座ろうとしている。

 それを見て、シャンリーは自分の太腿を叩いた。固まるな、動け。自分が弱かったら、兄はいつまでも自由になれない。

 強く。

 強くなるんだ。

「兄上えぇえええええ!!!!」

 シャンリーは震える膝を叱咤し、立ち上がった。

 素早く二刀のダガーを引き抜き、桃色のツインテールを躍らせながらシオンに襲い掛かる。

 机を飛び越え、鋭く斬り付けたプティ・ランスロット。その刃先を、シオンは片手で鷲掴みにして止めてしまった。もう一方を振り上げても、同じく。

 ギリ、と歯噛みして、机を踏み台に膝を鳩尾に打ち込んでみるものの、シオンの鋼のような肉体には些かのダメージも与えられない。

「シルフうっ!」

 ゴウッとシャンリーの身体を風が取り巻く。桃色のツインテールを巻き上げたそれは、鎌鼬のようにシオンに襲い掛かる。

 けれど、届かない。

 風は見えない障壁に弾かれた。

 精霊の力ではない。

 ただシオンが闘気を纏って風を弾いたのだ。

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