雨虹~傘を持たない僕達は果てない空に雨上がりの虹を見た~
「こんな時間だし送ってく」


「いいよ。そんなに距離があるわけじゃないし、大丈夫」


「なら、遠慮する必要もないだろ? 送られるのが嫌って言うなら話は別だけど」


「そうじゃなくて。今朝も迷惑かけたばっかりだし……」


「別に。ああいう奴、見て見ぬふりとか出来ないだけ。ほら、行くぞ?」


 ひとり歩き出す律樹に、那子もその背中を追いかけた。律樹の後ろを着いていく様に歩きながら、那子はふとバイブルでもあるホット〇ードを思い浮かべる。

 主人公の女の子を不器用な男の子が守る――今まさに、律樹がその男の子と重なって見えた。


「桜川って、ピアノ弾くんだな」


 いきなり律樹から話を振られ、那子は我に返る。


「えっ?」


「ショパンの別れの曲弾いてただろ?」


 律樹に言われ、那子は中間テスト期間に第一音楽室で弾いていた事を思い出した。
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