雨虹~傘を持たない僕達は果てない空に雨上がりの虹を見た~
「あの曲、俺、好きなんだよね」


「アタシも……好き」


 曲の事を話しているのだが、この『好き』というフレーズに、ひとりドキドキしてしまう那子がいた。恥ずかしさで火照る顔。それを律樹には見られたくない。


「今宮、もうここで大丈夫。あとこれ、今朝のお礼と送ってくれたお礼」


 那子は律樹に押し付ける様にコンビニの袋を渡すと、そのまま走って行ってしまった。

 律樹はそんな那子に小首を傾げながら、渡されたコンビニの袋を覗く。そこにはいちごのブラマンジェがひとつ……。

 わざわざ隣町のコンビニまで買いに来たのいうのに、結局、手ぶらで帰って行った那子。

 ――何やってんだ? 桜川(あいつ)……

 律樹は呆れながらも小さく吹き出すと、踵を返して歩き出した。

 もうすぐ夏を連れて来る温かな風が、律樹の髪や頬を撫でながら通り過ぎた。
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