ミラージュ


……………

汗が一筋頬を伝った。あたしは軽くそれを拭う。

時計を見て、もうそろそろ来るだろうと立ち上がった。


あの日々と変わらない蝉の鳴き声が、アスファルトに響いている。

「夏実っ、ごめんっ!」


不意にあたしを呼ぶ声がして振り向くと、あたしよりも汗だくになって走ってくる彼が見えた。

少しだけ頬を膨らませてみせて、それでもすぐに笑顔に戻す。

「おそーいっ!アイス奢りねっ」
「まじごめんっ!何でも奢らさせていただきます」
「じゃあハーゲンダッツ」
「…もうちょい安いので」

え~っと笑いながら、あたし達は手を取り合う。

「暑いね」
「うん。夏真っ盛りだしな」


…夏が来る度に、あたしは毎年思い出すだろう。

温くなったアクエリアス。

寄り道した小さな駄菓子屋。

あの甘い、砂糖飴の香り。

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