スワロウテイル
「ごめん! 長洲に誘ってもらえてすごく嬉しかった。 嬉しかったんだけど‥‥俺、好きな子がいる。 だから、二人で出かけるのは‥‥ごめんっ」

馬鹿正直にそう言って頭を下げる修の姿を、沙耶はぼんやりと眺めていた。

「好きな子って‥‥みちるちゃん?」

恨みがましくならないように、細心の注意を払って表情や声を作る。

わかりやすすぎるくらいに修は頬を赤く染めて、こくりと頷いた。

「‥‥そっかぁ。 うまくいくといいね!
応援してるね」

胸の前で両手をグーにして、頑張れのポーズを作った。だけど言葉とは裏腹に、笑顔は思いっきり寂しげに。

単純な修の目には、振られたにもかかわらず健気な笑顔を見せる優しい女の子とうつったことだろう。

修の背中がずいぶんと遠ざかってから、沙耶はチッと小さく舌打ちした。

「別に告白したわけでもないのに、なんで私が振られたみたいになってんのよ。
ばっかじゃないの⁉︎」

たまらず飛び出した本音は自分でも驚くほどに低くドスのきいた声に乗った。


沙耶は両手を空に突き上げて伸びをすると、くるりと修のいる方角に背を向けて歩き出す。


「あー、無駄な時間だった。次は誰を狙おうかなぁ‥‥」

クラスの男子、バスケ部の男子、後輩‥‥はなしだ。歳下はパス!

たくさんの顔が浮かんでは消えていく。
これだから田舎は嫌だ。かっこいい男の子の絶対数が少な過ぎる。


沙耶はイライラしながら、足早に自宅へと向かう。さっさと帰って、メイクを落としてさっぱりしたかった。

下地、リキッドファンデ、フェイスパウダー、チークにコンシーラーと何層にも化学物質を塗りたくりったお肌は乾燥しきっていて、ピキッと音をたてて今にも崩れそうだった。


さっきから、胸ポケットにしまったスマホが何度も振動を繰り返している。
きっとグループメールが盛り上がっているのだろう。

だけど、見なくてもわかる。
どうせくだらない話題なのだ。

アイドルの話かテレビドラマの話。
そうじゃなければ、担任教師の悪口あたりだろう。

返信することはおろか、見ることすら億劫だった。

振動するスマホも、見飽きた田舎そのものの景色も、全てに目を瞑って沙耶は歩き続けた。



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