スワロウテイル
日曜日の午後。

部活の練習が終わり次第、急いで帰宅するとシャワーを浴びて私服に着替えた。
お気に入りの水色のワンピースに白いサンダルを履いて、沙耶は足取りも軽やかに家を出る。
つけ睫毛とカラコンは卒業したものの、念入りなベースメイクとたっぷりつけたマスカラからはまだまだ卒業できそうにもない。

「可愛くなりたいって気持ちは女子の本能だもん」

裏道の蝶が見せてくれたナチュラルメイクの沙耶はやっぱり幻だったのかもしれないな。


千草ばあちゃんちの前を通るときにちらりと縁側を覗いてみた。
期待していた千草ばあちゃんとヨネの姿はなくて、代わりに五条と部活からそのまま来たのか学校指定のジャージ姿の修が将棋盤を挟んで向かい合っていた。


「あれ、長洲~?どこ行くの?」

修がのんびりとした声で言う。

「クラスの友達と映画~」

「なに観るの~?」

「ハリウッドのアクション映画だよ!」

沙耶は五条と修に手を振ると、待ち合わせ場所のバス停へと急ぐ。

この間、みんなでお昼を食べているときに沙耶は正直に告白した。
ヒロトは好きだけど、ああいう恋愛映画は好みじゃないと。

『そうなの?じゃあ、他の映画にしよっか!』
『今なら、他はなにが面白いかな~?』

そういって三人はあっさりと違う映画を探してくれた。
他のふたりには聞こえないように絢香がこっそりと沙耶に耳打ちする。

『沙耶が言ってくれてよかった。実は私もあーいう感動押し売り系って苦手なの』


…女同士は難しい。嫉妬とか見栄の張り合いとか面倒なことがつきものだ。
煩わしく感じることもある。だけど、いなくなるとやっぱり少し寂しくて……。
近い将来、別々の道に進んだとしても、この町に戻ってきたときには沙耶はきっと一番に彼女達に会いたいと思うだろう。そして、嫉妬心を隠しながら、ほんの少しの見栄を混じえながら、離れていた間のことを何時間でも語り合うだろう。


「絢香~、なっちゃん、梨香子~」

バス停に佇む三人の姿に気がついた沙耶は大きく手を振って、走り出した。



長洲沙耶の物語  fin








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