スワロウテイル
それ以来、五條君とは会えば立ち止まってお喋りをする仲になった。
部活に所属していない者同士、生活リズムが似ているのか登下校の時に顔を合わせることも多かった。

「じゃあ、明日。図書室でね」

「ありがとう。本当に助かる」

軽く手をあげた五條君に向かって、みちるはぺこりと頭を下げた。五條君が東京で通っていた塾のテキストや問題集をみちるに譲ってくれるというのだ。
学校の教科書と古本屋で手に入れた数冊の参考書で受験に挑もうとしていたみちるには大変ありがたい話だった。


翌日の放課後。みちるが図書室で待っていると、五條君は大量の本を抱えてやってきた。

「え〜こんなに⁉︎」

みちるは本の山にちらりと目を向ける。

『英語・文法基礎』
『英語・長文読解』
『英語・ヒアリング応用』
『日本史・記述問題』
『日本史・近現代応用』

一科目につきテキスト一冊ではなく、何冊もあることにみちるは驚いた。

「うん。一応文系科目だけ持ってきたけど、さすがに重いかな? 要らないのは俺が持ち帰るよ」

「いえいえ、ありがたく貰います。
‥‥けど、東京の高校生ってこんなに勉強してるんだね。今から頑張ったところで、太刀打ちできるかなぁ」

みちるも頑張ってきたつもりだったけど
、まさに井の中の蛙だったかもしれない。
わかりやすく落ち込むみちるを励ますように五條君が言ってくれた。

「俺の行ってた塾は詰め込み式で有名だったから。俺も含め、脱落しちゃう奴のが多いくらいだし」

「う〜ん。私も脱落しちゃいそう」

貰ったテキストをパラパラとめくりながら、みちるはぼやいた。見たこともない難解な問題ばかりが並んでいた。
でも、これをスラスラ解けるようになったら自信がつくかも。みちるはそう前向きに考えてみることにした。


「そういえばさ、修のバスケの大会もうすぐだね」

「あ、そっか。もうそんな時期なんだね。今年はレギュラーになれるのかなぁ」

たしか去年はベンチ入りはできたものの、結局試合には出れなかったと修が悔しがっていた。

「三年の人数は多いし、二年にも上手い子がいるみたいでレギュラーになるの大変だって言ってた。 けど‥‥毎日頑張ってるよな」

五條君はまるで修の保護者みたいな目をしていた。

「うん。修はずっと頑張ってるよ」

みちるも素直に同意した。修は決して、運動が得意な方じゃない。運動会で1位になったとこなんて見たことないし、少年サッカークラブはすぐ辞めちゃうし。
だけど、バスケだけは中学から6年間ずっと頑張ってきていた。

レギュラーになれるといいな。それで、できれば試合に勝たせてあげたいな。

「応援とか行かないの⁉︎」

五條君はみちるの顔を覗き込むように顔を傾けて微笑んだ。
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