嘘は世界を軽くする
序章
 七月七日、七夕の日。

 神社で毎年行われる精霊祭では、亡くなった人に想いを伝えるため、祈り短冊に言葉を記す。
 「ありがとう」、「天国でお元気で」、それから――「あなたにもう一度、会いたいです」。

 人は、死ぬ。
 どんな人でも、必ずいつか死んでしまう。

 けれど、それは肉体の死だ。
 人の魂は決して死なない。
 肉体という抜け殻を残し、その魂は天に上って、地上に残してきた愛する人たちを見守っている。

 その重さは、21g。

 肉体を残し、天に解き放たれる魂の重さだ。
 アメリカの科学者か何かが、人が死ぬ前と死んだ後の重さを量り、実験を繰り返して調べた結果らしい。

 それは、たったの21g。

 その人が、あなたにとってどんなに大切な人であろうと、この世界から失われるのはたったの21gに過ぎない。

 そして、その重さは老若男女皆同じ。
 だから、十六の僕が死んだとしても、失われる重さは同じなのだ。

 ――これは、愚かな僕が死んでしまうまでの記録。

 一つの魂が消えた後の、マイナス21gの世界の話。
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