さよならはまたあとで
「ひーだかさん」
私が再び本の世界に帰ろうとしていると、不意に名前を呼ばれた。
どこか懐かしい感じのする声。
私はうっかり、声の方へ振り向く。
そこにいたのは1人の男子生徒だった。
セットされた髪、二重の目、高い鼻、少し茶色がかった瞳、右目元にある泣きぼくろ。
誰かに似ているような気がするけれど、あと少しのところで思い出せない。
隣の席にいた彼は、気だるげに頬杖をつき、かつ顔はどこか得意気を帯びていて、自信に満ち溢れていた。
私は慌てて顔を逸らし、本へと目を落とした。
「りえちゃん!」
彼は1分も経たないうちにまたこちらを向いてそう言った。
私は本に視線を落としたまま、ため息と一緒に「優恵」と訂正した。