【短編】あいのうた
「ねぇ、和也。
 今夜も泊まっていい?」

「ええ?
 オレはいいけど、奈々には彼氏がいて……
 今日、仕事から帰ってくるんじゃなかったか?
 無理すると、浮気がバレるぞ?」

 突然聞こえた奈々と男の会話に。

 僕は、口に詰め込んでいた料理を吹きそうになった。

 な……奈々!?

 い、今、なんて言ったんだ……!?

 驚いている僕のことなんか知らずに、奈々は知らない男に甘えた声を出した。

「仕事じゃないのよ。
 ボランティアなんだって!
 円周率、とかいう、ワケわかんない数字を暗記して。
 覚えた数字を丸一日かけて、延々発表してんのよ?
 世界記録か何かは知らないけど。
 就職もせずに。
 30超えてフリーターしながらなんて、サイテーよね?」


 なんて……事だ……!

 奈々が、浮気をしていたなんて。

 僕の事を、そんな風に思っていたなんて!

 青ざめて。

 口の中の食物を無理やり飲み込んだ僕に、奈々の声は、更に追い討ちをかけた。

「お嫁に行くなら、大滝さんみたいなヒトより。
 和也みたいな、ちゃんとしたサラリーマンが、いいわ」

「……っ!」

 もう、黙って聞いてなんていられなかった。

 突然、椅子を蹴立てて立ち上がった僕に。

 二人の女性が驚いた。


「「大滝さん!」」



 奈々と井上教授の二人の声が、重なった。

 でも、もう。

 僕は。

 奈々の声を聞いても、少しも嬉しくなかった。

 僕のココロから、奈々が急速に遠ざかる。

 もうとっくに、遠ざかっていた奈々のココロを追いかけるように。

 
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