【短編】あいのうた
 僕は、テーブルに、1万円札を置くと、店を飛び出した。

 悔しい。

 悔しい!

 悔しい!!



 ……悲しい。


 奈々を愛していたのに。

 とても、とても、愛していたのに……!

 僕のココロは、散々に乱れて。

 頭は、煮えそうにになっていた。

 吐きそうなほどの苦しい現実から、逃げるために。

 慣れた数字を引っ張り出した。

「3.1415926………」

 自然と口をついて、出て。

 いつも僕の側にいる。

 どんな動揺からも、救ってくれるはずの呪文でもある歌は。

『7』の所で、氷りついた。


 ホワイト・アウト。

 次の数字は、どんなに、思いだそうとしても出て来なかった。

 僕は。

 円周率を歌えない………?

 その、現実に、僕は怯えた。





 ……壊れる。




 壊れてゆく、僕の愛の歌。



 僕以外、誰も歌えなかった、20万桁の円周率から奈々が。




 『7』が抜け落ちる。





「……!」

『7』から先が、どうしても思い出せない……!

 僕は、菜の花畑の真ん中で、崩れるように膝をついた。

 
 

 
 
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