さよなら、もう一人のわたし
わたしの憧れの存在
 翌朝、学校に行くと、わたしの机の前に一人の男が立っていた。わたしのクラスメイトの武田弘だ。

 体格がかなりがっしりしていて、いかにも体育会系だ。別に荒っぽい性格でもなく、わたしよりもマイペースなところもある。彼とは小学校から同じ学校に通っているため、ほかの友人よりもつながりが深い。お母さんも彼のことはよく知っていた。

「昨日、一緒にいた子友達?」
「友達といえば友達かな」
「名前は?」

 弘は目を輝かせ、頬を赤らめていた。

 昨日、まさしく千春が演じて見せたような表情だ。

「彼女のこと好きなの? 一目ぼれ?」

「そんなことないけど」

 だが、より赤くなった表情はわたしの問いかけを肯定しているような気がした。
 本当に彼は分かりやすい。

「わたしが紹介しなくても自分で話を聞けば?」
「どうやって?」

「どうやってって普通に。同じ学校じゃない」
「何組?」

「五組だけど」
「平井さん、女の子が呼んでいるよ」

 そのやり取りを別の生徒の声が打ち消した。
 わたしは弘との会話を打ち切って席を立つ。

 廊下に出ると、眼鏡に三つ網の髪の毛をした女の子が立っていた。
 千春だった。
 千春はわたしを見ると、手を振った。

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