さよなら、もう一人のわたし
「それはわたしの父親が母親のために書いた本なのよ」

 水絵さんの唯一の主演作の脚本だ。彼女はこの映画に出た後、一本のCMに出た後姿を消したのだ。

 その前には同じ監督の映画に脇役として数本出ていたはずだ。監督の名前は確か成宮秀樹といったはずだ。

 成宮?

 わたしはその苗字を思い出して、千春を見た。

「成宮って監督の娘?」
「違う、違う。それは伯父さんだよ。でもお父さんもかなりの年でかなり歳の離れた父親だったけどね」

 彼女が言っていた映画監督の伯父というのは成宮監督のことだったのか。
 わたしの興味を惹きつけたのはそれだけではなかった。

 彼女の父親は母親のために書いたと言っていた。
 可能性はいくらでもあったはずなのに、気分の盛り上がったわたしは勝手にある答えを導き出していた。

「高木水絵さんが千春のお母さんなの?」
「そう。分からなかった? 結構お母さんにそっくりって言われるのだけど」

「全然分からなかった。言われてみると確かに似ているかも」
「似たくもなかったんだけどね。お兄ちゃんもお母さん似だよね」

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