さよなら、もう一人のわたし
 わたしは急須の中のお茶の葉を取替え、湯のみにお茶を注いだ。そして、母親に差し出す。

「ありがとう。忙しいのに悪いわね」
「気にしなくていいよ」

 彼女を好きになる人も少なからずいた。その中には幼いわたしに親切にしてくれる人もいた。
 それでも彼女は誰とも結婚することはなかった。

 わたしが知らないだけで、つきあっていることはあったのかもしれないが、結婚という選択肢を彼女が選ぶことはなかった。

 身ごもり、子供を産もうとまでしたわたしの父親を彼女はそこまで思っていたのだろうか。だが、母親はわたしにその話をしてくれたことはなかった。

 恋愛面に関しては、彼女が本当な何を考えているのかは分からなかった。

 だが、そこまで母親が父親のことを好きなら、母親がそこまで愛した人の姿をわたしは一度見てみたいと思っていた。

 それが叶わない夢だと分かっていても。
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