さよなら、もう一人のわたし
わたしの好きな人
 高校は夏休みに入っていた。だが、夏休みといっても言葉ばかりで、毎日のように補習がある。本当なら嫌だと思う補習も、わたしの日常を忙しくするのに一役買っていて、少しほっとしていた。

 あれからわたしは今まで以上に勉強していた。
 あのときのことを思い出し、何ともいえない気持ちになるが、勉強に打ち込める環境があるだけ幸せだと思ったのだ。

 ペットボトルのお茶を飲みほし、強い日差しを手の甲で遮った。
 わたしの体に長方形の影がかかる。顔をあげると千春が水族館のチケットを手に立っていたのだ。

 彼女はわたしの隣に座った。

「これあげる」

 語尾にハートマークがついていそうな甘い声を出す。

「ありがとう」

 彼女から一枚のチケットを渡された。何となく千春はチケットが一枚しかないからと行くような子ではなかった。興味がないのだろう。わたしは逆に一人でこんなところに行くのはちょっと気が進まなかった。
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