さよなら、もう一人のわたし
 その日の夜、わたしは尚志さんに電話をすることにした。最後のボタンを押すと、すぐに呼び出し音が聞こえ、不思議そうな尚志さんの声が耳に届く。
 わたしは深呼吸して、言葉を紡ぎだす。

「千春の友達の京香です。覚えていますか」
「京香さん? どうかした?」

 どう聞けばいいだろう。今更ながらに迷惑かもしれないと臆してしまい、うまく言葉が出てこない。

「水族館に行きませんか? 一枚だけ手元にあって」
「水族館のチケット? そういえば、昨日、千春からもらったけど。あいつ一枚しかないからって俺によこして」
「千春からもらったの?」

 わたしはそのとき千春の狙いが分かった気がした。
 わたしたちをデートさせようと思ったのだろう。

「いるならあげるよ。どうせ使わないし、友達とでもいってきたら?」

 わたしは息を吸い込み、勇気を出して言葉を発した。

「一緒に行きませんか?」

 驚いたような声が受話器の向こうから聞こえてきた。

「別に興味もないし。千春と一緒に行けば? あいつに渡して」
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