ラブ パラドックス
「前髪もうちょっとだけ切らせて」

「はーい」


何の疑いもなく目を瞑り、無防備な凛子の前髪に触れる。

凛子の顔に、自分の顔を近づける。


10センチ、あと10センチのこの距離が、俺には永遠に縮められない。


流行りのリップで色付いた凛子の唇にキスしたら、俺たちの関係は変わってしまうだろうか。

何度繰り返したか分からない、最後の一歩が踏み出せない愚考をやめて、はさみを縦にして先を使って重さを調節する。



なあ凛子。

俺、お前が好きだよ。すごく大切で、だからこそこの10センチは永遠に縮められない。

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