僕の星

宿命の星

 俺は星を探した。
 1人1人が生まれながらに持っているという、宿命の星を。

 お袋が昼間、ダイヤモンドの指輪を見せてくれた。その時の言葉がどうしても気になって、夜の砂浜に走ったのだ。

 俺は夜の浜辺でひとり、砂漠で1本の針を探すような難事に取り組んだ。
 お袋は随分と簡単そうに言ったのだけど。

『春彦のお星様はきっと、キラキラとまぶしい……そうね、このダイヤに負けないぐらい、とってもキレイなお星様に決まってる。すぐに見つかるわよ。ううん、宿命の星は見つかるというより、見えるものだから』
『宿命って?』

 指輪を見つめて、お袋は言った。

『生まれる前から決まってるってこと』
『お父さんとお母さんみたいなこと?』

 俺は大真面目に言ったのだが、お袋はうふふと笑い、指輪をケースに収めて蓋を閉じた。

『あとは、自分で考えることね』

 難しい宿題を出されたような気分だった。

 とにかく俺は、夜空を眺めた。随分長いこと、そうしていたと思う。

 やがて、言いようのない恐ろしさにとらわれた。
 星の宇宙に、俺の体がいつの間にか吸い込まれ、ここから消えてしまうのではないか――

 それまで、怖いと思ったことは何度もあった。
 でもそれは、まったく次元の違う恐ろしさだった。

 自然を畏れる人間の本能がもたらす、恐怖だったのかもしれない。

 その時、浜のどこかで打ち上げ花火が一発、ピストルのような音をさせて空に上がった。
 俺はびっくりして起き上がると、家に向かって一目散に走る。後ろを振り返らず、何かとんでもない化け物にでも追われるかのように、必死で走った。
 

 結局、宿命の星とやらは見つからず、翌朝には興味も恐怖も、何もかもが俺の中からすっかり消えていた。
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