僕の星

奈良再訪

 奈良駅で電車を降りると、二人は興福寺の方向へと歩き出す。猿沢の池、そして修学旅行で里奈が泊まった旅館の前を通りかかる。

「わあ、懐かしい!」

 里奈は思わず声を上げた。
 猿沢の池では、あの時と同じように亀が岩の上でじっとしている。

「俺達の学校は、あれからすぐに京都へ移動して、向こうで泊まったな」
「そっか」

 里奈は旅館の窓を見上げ、月がきれいな夜だったなあと思い出す。ゆかりと一緒に、池のほとりに座っていた。

「足元、気をつけろよ」

 石段を上るところで、春彦が注意した。
 里奈はパンプスを履いている。ヒールの低い靴を選んだので歩きにくくはないが、男の人から見ると不安定に映るかもしれない。しかも、めずらしくスカート姿である。

 ――里奈、今日は女みたいだな。

 今朝、駅で待ち合わせた里奈に、春彦がふざけて言った。そのくせ熱っぽい視線で見てくるので、里奈は怒ったふりをしながら困惑したのだ。

 彼は里奈の服装について、普段は何も言わない。
 でも、やはり女らしい格好は好きなのかなと里奈は想像する。
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