僕の星
 一方、春彦の両親はすぐに許してくれた。だけど、やはり若すぎる二人の結婚は心配らしく、

『大卒の初任給って、どれぐらいかしら』
『生活できるならいいが……』

 現実的な話をして、もう少し先にしたらどうかと提案した。
 だけど、里奈と春彦の決意は変わらなかった。

 変わらぬ気持ちを形にしようと思ったかどうか、春彦は千葉の実家に例の指輪を取りに戻った。そして、名古屋の宝飾店に里奈を連れて行き、サイズを調整してもらうよう頼んだのだ。
 左手の薬指に、ぴたりと合うように。


 里奈はもう一度、自分の左手薬指を見つめる。
 何もつけていない白い指を、そっと撫でた。

 予定では、指輪の調整は済んでいるはずだが、春彦は何も言わない。

「里奈、桜が咲いてるぞ」

 春彦の声にハッとして、顔を上げた。
 車窓から、奈良の景色が見える。京都駅で私鉄に乗り換えてから、里奈はまたぼんやりしていた。

「奈良公園も、きれいだろうな」
「う、うん。楽しみだね」

 春らしい風景に目を細めると、奈良に来たのだという実感が湧いてきた。
 春彦の隣で微笑み、昨夜のことも指輪のことも忘れる。

 いつしか里奈は、高校時代の気持ちに戻っていた。
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