僕の星
 大きな橋のところに来ると、里奈はバッグから例のお守り袋を取り出した。

「これ、どうしよう」

 ゆかりに振り向き、困惑顔で訊く。

「捨てちゃうのも罰当たりな気がして。困っちゃうよホントに」
「ホントだよねえ……」

 二人は眼下を流れる川に目を落とし、雨粒が流れの中に吸い込まれていくのをしばらく見ていた。

「でも里奈ってば、ああいう男の子がタイプなんだね。結構、渋いよね」

 ゆかりは顔を上げると、里奈に笑いかけた。細い目が垂れて、ますます人のいい顔になる。
 里奈も釣られて笑った。

「うん、ゲームに出てくる戦国武将って感じ。眉も凛々しくて……好きなタイプだったかな」
「また、そういう人に出会えるといいね」

 ゆかりは傘を斜めに傾けると、里奈の傘を軽く突いた。
 水滴がぱらぱらとこぼれた。

「うん……きっと、いつかまた」

 里奈はつぶやくと、滝口がくれたお守り袋をぎゅっと握りしめる。

 やっぱり捨てられない。
 もう彼に会うことはないだろうけど、でも……もしも、もう一度会えるのなら訊きたい。

 このきれいな透明の粒が何なのか。
 どうして私のイメージと言ったのか。

「行こう、里奈」

 ゆかりに促され、里奈は歩き出す。
 振り向かず、まっすぐ。でも、少しだけ寂しい気分で。

 しめやかな雨の街を、二人はあとにした。
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