僕の星

社会人1年生

 そろそろ春彦から連絡がある頃だ。

 里奈は仕事が一段落すると、スマートフォンを取り出し、メールアプリを確かめた。
 着信マークがないのを見て、今日何度めかのため息をつく。


 春彦は今年の春、名古屋市近郊にキャンパスを置く理工系大学に入学し、大学近くに借りたアパートから通っている。

 課題が多くて忙しいようだが、2、3週間に1度は、里奈を食事やデートに誘ったりする。

 お互い友達感覚の付き合いだが、意識の底では、やはり高校の頃とは違う。ただ、それを前面に出すのは気恥ずかしい。

 また、何かもったいないような気がして、二人とも友達としての時間を大切にしている。

 それに、どちらも新しい環境下での生活に緊張した状態なので、恋愛に集中できないという事情もあった。

「どうしたんだろ……」
 結局、春彦からの連絡が来ないまま、退社時間になってしまった。

 彼は9月半ばから、空手部の合宿で信州に出かけている。昨日、名古屋に戻ったはずなのに。

 里奈は更衣室で制服を脱ぐと、カジュアルな私服に着替える。化粧は薄く、寒色系のスポーティな服装を好むので、社会人というより高校生に見える。

 春彦も何も言わないし、パンツのほうがラクだから、スカートなど穿いたこともない。ゆかりに「信じられない」と言われるが、なぜだか女らしくするのが照れくさいのだ。

 着替え終わると、通用口から社屋を出て、駐車場へと歩いた。
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