僕の星
 里奈はゆかりとも時々会っている。彼女は地元短大の国文科に進学したが、一緒にご飯を食べたり、映画を観たり、高校生の頃と変わらぬ付き合いを続けている。

 駐車場に着くと、春彦ではなく、そのゆかりから着信があった。

『里奈、仕事終わった?』

 弾んだ声が聞こえた。

「うん。今、会社の駐車場。これから帰るとこだよ」
『もしかして、これから春彦君とデート?』
「ううん。あのヒト忙しいみたい。連絡がないから、今日はもう会えない感じ」
『そっか。じゃ、一緒にご飯食べない? M町の”リーフ”とかどう?』
「わっ、いいね。そういえばお腹すいてるし」
『よかった。今5時半だから……6時にお店の前で待ってる』
「OK、じゃ30分後に。よろしく!」

 ゆかりはずいぶんとご機嫌だ。
 里奈は思わず笑みを浮かべ、その時ふと視線を感じた。
 振り向くと、同じ課の海老沢(えびさわ)がこちらを見て笑っていた。

「あ……」

 里奈は慌てて会釈する。
 さっきからそこにいたのだろうか。会話を聞かれたと思い、ばつが悪くなる。

「今帰り? 運転、気をつけろよ」
「はい。失礼します」

 海老沢は社用車からダンボール箱を取り出すと、肩に担いで社屋に歩いて行く。
 里奈は何となくその場に立ち、広い背中を見送った。
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