僕の星
 海老沢はどことなく春彦に似ている。
 企画課に配属されて初めて顔を見た時、胸がドキッとした。
 
 春彦の10年後みたいな、そんな雰囲気のする男性だ。つまり、春彦を大人にしたような……
 里奈とはデスクが離れているが、時々こんなふうに言葉を交わす。というより、気さくに声をかけてくれる、面倒見の良い人なのだ。

 先輩の女性社員が噂していた。

 ――あの人、バツイチなのよ。

 社員食堂で食後のコーヒーを飲んでいる時、新入社員の里奈達にわざわざ教えた。

 バツイチと聞いて、里奈はあらためて海老沢を眺めた。そういえば、彼のワイシャツの襟は、いつもちょっと汚れている。毎日着ているエンジ色のチョッキは、かなりくたびれていた。

 わびしい独り暮らしが想像された。

 親切で優しくて、とてもいい人なのに……どうしてバツイチなんだろうと、里奈は首を傾げる。

 ――夫婦の生活は、人柄だけじゃ駄目なのよ。

 先輩達がしみじみと口にする。
 
 ――あんたたちにはまだ理解できないわよね。

 高校を出たばかりの里奈達を見て、彼女らは笑った。
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