僕の星
「君、さっき東大寺にいたよね?」

 とげとげしい態度を彼は気にもせず、くるっとした目で里奈を見ている。

「え? あ、はい……」
「そうか、やっぱり」

 彼は照れたような顔になり、目を逸らした。
 でもまたちらりと里奈を見て、何か言いたそうにしている。

 先ほどの進太と同じくらいの長身だが、こちらは頑丈な体つきだ。ブルーのG-SHOCKを巻いた手首は日に焼けている。

 スポーツをやってる子かなと、里奈は何となく想像した。

 髪はさっぱりと短めで、無造作な感じに後ろに流している。
 凛々しい眉に、黒目がちの目。
 他の男子達と異なり、どこか大人びた印象を受ける。


 五重の塔の向こうから、ゆかり達が里奈を探す声が聞こえてきた。
 里奈はハッとする。

「あの、もう行かなくちゃ」

 その場を離れようとする里奈に、彼は慌てて近寄ると、

「これ、あげる」

 手の平に何かを押し付け、ぎゅっと握らせた。

「ひゃあっ」

 突然のことに驚き、里奈は小さく叫ぶ。
 彼は2、3歩後ずさり、びっくりしている里奈に、爽やかに笑いかけると、

「君のイメージだよ」

 ひと言残し、里奈の横を走り抜けて行った。素晴らしく足が速い。

 里奈は呆然として、手の平を見下ろす。
 そこにあるのは、東大寺の文字と大仏様の図柄が刺繍された、オレンジ色のお守り袋だった。
< 7 / 176 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop