僕の星

蠍座と射手座

 里奈は名古屋城を見学したのだが、何が展示されていたのかほとんど覚えていない。ポケットに手を突っ込んだまま里奈の先を歩く、春彦の背中だけ見ていた気がする。

 里奈はショートカットの髪をくしゃくしゃとかきむしりたい衝動に駆られた。
 バスの中でのこと。
 春彦は一体、どう思っただろう。慣れないことをするもんじゃない。

 後悔が渦巻くけれど、もう遅い。

 赤くなったり青くなったりするうちに、いつの間にか城を出ていた。



 春彦が土産屋で買い物する間、里奈は広場のベンチに腰かけ、ぼーっとしていた。
 団体客、家族連れ、カップル――様々な行楽客が行き交っている。

 中でも、年配の夫婦連れが多く見られた。彼らは結婚何年になるのだろう。30年、いや40年くらいだろうか。一緒に写真を撮る仲睦まじい夫婦もいれば、何となく肩を並べ、のんびりと散策を楽しむ夫婦もいる。

(ご夫婦でお城見学か……いいなあ)

 風が吹いて、里奈の鼻先をくすぐる。ほんの少し、秋の匂いがした。
 里奈は何だか可笑しくなり、独り笑いする。

 私は何というせっかち人間だろう。
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