僕の星
「お待たせ」

 春彦が戻って来て、里奈の顔をひょいと覗きこんだ。

「何、考えてたんだ?」

 一人で笑う里奈に、からかうように訊く。いつもの春彦だった。

「ううん、なーんにも。お土産買ったの?」
「ああ。親父がスマホカバーがあれば送ってくれって言うから、それだけ買った」
「そっか。自分のは?」
「俺は卒業するまで何度か来るだろうし、今日はやめておいたよ」
「ふうん」

 そうだった。春彦は大学にいる間、名古屋に住む。
 城好きの彼のことだから、名古屋城にちょくちょく通うだろう。

(でも、ということは……)

 春彦がいずれ千葉に帰るということに、里奈は思い至る。本人が希望するとおり、就職先は関東になるだろう。
 二人が傍にいられるのは、あと3年半――期限付きなのだ。

 春彦は里奈の隣に腰かけると、名古屋城の天守閣を仰ぎ見た。抜けるような青空に、白い城壁が映えている。

「本物の天守閣は戦争で燃えちゃったんだよな。酷い話だ」

 春彦は残念そうにつぶやくと、ため息をついた。


< 81 / 176 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop