僕の星
 満月に照らされた古都は明るく、幻想的だ。

 いにしえのひと――
 吉備真備(きびのまきび)や僧・玄昉(げんぼう)もこの月光を仰ぎ、はるか長安の都を想ったのだろうか。

 歴史好きの里奈は、奈良の昔を想像した。


 二人は家族へのお土産を購入すると、旅館に戻った。
 宿は猿沢の池近くにあり、部屋の窓から興福寺の五重の塔を眺めることができる。

 部屋にはまだ誰も帰っていない。
 里奈はどうしようかと迷った末、ゆかりを窓辺に手招きした。

「ね、ゆかり」
「うん」

 いつになく神妙な様子の里奈に、ゆかりも真面目な顔で応える。

「私ってさ」
「うん」
「私って……」
「うんうん」
「イメージ的に、大仏?」

 ゆかりは沈黙すると、里奈の顔をまじまじと見回す。
 里奈が真剣であることが逆に可笑しいのか、きゃはははと笑い出した。

「冗談じゃないんだけど?」
「だって大仏って……どうして大仏が出てくるの。あははは……おっかしい~」
「ゆかりってば、真面目に聞いてよ」

 里奈はポケットから例のものを取り出すと、笑いすぎてお腹を押さえているゆかりに見せた。

「……どうしたの、それ」

 ゆかりは眼鏡をはずして涙を拭いながら、オレンジ色のお守り袋に注目する。

「もらったの。知らない男の子に」
「ええっ?」

 ゆかりはやっと真顔に戻り、きちんと座り直した。
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