虚無たちの葬失
「この学校は転落防止のために、外側の窓は全部三分の一しか開かないようになっているよね。子供でもちょっと引っかかるくらい。それに何より窓の外には足場がなくて、地面はコンクリ。そして、教室があったのは四階だった」
見取り図を描き終えた遥は、『開いた窓からの脱出は不可能』と新たに書き足した。
純也がこれで全部なのかを確かめるように全員の顔を見回す。
すると思い出したように誠が顔を上げ、遥に身体を向けた。
「教室の外には五メートルほど離れたところに体育館が建っていて、あの部屋からは丸い屋根が横に見える。それについて、重要な目撃談がある」
「いったいなんなの?」
美緒が話の続きを急かす。
誠はちらりと美緒を一瞥し腕を組むと、視線を右上にやりながら眉を顰めた。
「目撃者の名前は伏せるけど、そいつは諸事情でずっと体育館の入り口に座って校舎を眺めていたらしい。つまり、もし犯人が窓から出てきたらすぐにわかる場所にいたんだよ」
「で、窓から人が出てきたのを見たっての?誠、騙されてんじゃねえの」
「反対さ。人どころか、動物だって出てこなかったらしい。ただ……」
和真がいたずらっぽく言って茶々を挟んだが、誠はそれに過敏に反応することなく言葉を綯う。
「そいつは窓際に佇む凪紗を見たらしいんだ」
四人が微かに顔をしかめ、押し黙る。
純也の背後の窓ガラスからは、校庭に高く舞い上がるサッカーボールが夕陽を受けて輝いている姿を望むことができた。
誠が一息を吐き、その様子を想像するように瞼をつぶる。
「ただ佇んでいただけじゃない。……彼女は体育館に向かって何かを投げていたらしい。目撃者のそいつも体育館の中にいたやつも、何かが屋根や雨樋に何かが当たる音を聞いている。そういえば、凪紗の姿が消えたあとにまた二度音がしたらしい。あと、透明なものが空を飛ぶのを見たとかいって……」
無言で手を止めていた遥が、はっと我に返り黒板上で白いチョークを踊らせた。
「凪紗は多分、水槽の石を投げていたんじゃないかな。後からその場所を見たら、五つほど石が少なくなっていた。僕はそれを、体育館の中もしくは近くにいた誰かに自分が来たことを知らせるための合図だったんじゃないかと考えている」
へえ、と和真が笑んだ。