虚無たちの葬失
あらかたの情報を板書し終えた遥が振り向き、
「もう無い?」
と四人に質問する。
「ああ、そういえば……あと一つだけ。……思い出した」
美緒が髪をしなやかな指に絡ませながら、ぽつぽつと語った。
「凶器は薄くて鋭い刃物なのよね。それについて思い当たるものが一つあるの。凪紗はいつも、筆箱の中に十センチくらいの青いカッターナイフを入れていた。でも……」
途中で言葉を切り、美緒は唇を噛み締めて悲しげに目を落とした。
遥は黒板に背を向けて卓上に座る彼女の後ろ姿を見つめた。
「あの日、筆箱の中からはカッターナイフなんて見つからなかった」
「……殺害道具に使われたのは、凪紗のカッターナイフか」
チョークの立てる高い音を耳に入れながら、純也は再度、夕陽に染まる空虚な校庭に視線を戻した。
「じゃあ次は、犯人の絞り込みか」
基本的な状況説明が出尽くしたのを見計らい、純也はこわごわと話を始めた。
「凪紗はあまり親しい人間を作らなかったから、無差別殺人でない限り、絞り込むのは特に難しいことじゃない。理由は知らないが、凪紗は校舎内で殺されたことから、犯人は生徒もしくは先生なんじゃないかと俺は思う。異論はないよな?」
他の四人に詰問を投げかけるが返ってくる気配はなく、純也は窓ガラスに背を預けた。
夕陽は徐々にビル群に沈んでいき、校庭に群がる無数の人影が長く伸びて重なり合っている。
「凪紗と接点があったのは、俺ら四人と担任の佐野村、それと……」
「三組の八代、伊藤、加島だな。あと橋川」
和真が純也の声にかぶせるようにいい、両手で九本の指を立てる。
それを見て遥は苦笑いをしながら一度聞いただけの名前を黒板に書き表し、美緒は軽くため息をついた。
「これ、私たちが知らない人と凪紗が関わっていた場合、意味がないんじゃないの?もう私たちにはそんなことを知る術はないんだから」
「うーん……まあまあ、一応このメンバーで考えてみようよ」
遥が美緒をなだめ、純也に催促の視線を送った。
視線の意味を受け取った純也は頷き、容疑者のアリバイを一つ一つ確認していく。
「九人のうち、アリバイがあるのは、俺ら四人と佐野村。佐野村は職員室にいたのを大勢の大人が見ているし、知っての通り、俺ら四人は互いがアリバイの証言者だ。あの日俺らは凪紗に今日は部屋に来ないでくれと言われて、大人しくそれに従った。他は?」
「凪紗は体育館に向かって何かを投げていたんだろう?その時間、橋川はずっと体育館の中でバレーの練習をしていたらしい。とすると、凪紗は橋川に合図を送った可能性もあるけど、死亡推定時刻の間、橋川は一度も体育館から外には出ていない。同じ目撃者が証言した」
誠が組んでいた腕をほどき、遥は手早くアリバイが確認された六人の名前に斜線を引く。