受け継ぐ者たち 外伝
「ただいま~」
アランを肩車しながら、相変わらずの気の抜けた声で扉を開けると、そこにカレン姿はなく、家の中は荒らされた形跡があった。
「まさか…」
その状況を見るや否、肩車していたアランを下ろして、家の部屋を見て回った。
全ての部屋が荒らされており、どこにもカレンの姿は見えずにいた。
「まさか…」
「そのまさかだよ」
いつの間にか後ろから声が聞こえたかと思うと、刀を手にした童顔の青年と忍び装束の姿をしている青年二人が立っていた。
「コリー…それにアーロンも。お前達今まで何処に?」
コリーと呼ばれた童顔の青年はその疑問に対して、何も答えず、ついてきてと言い残し、二人で家の外に出たと同時に走り始めた。
キールも二人を追うように家の外に出た。
「あ、アランが…」
一瞬、振り返ろうとしたキールに対し、コリーは振り向くことなく言葉を発した。
「心配しないで。村長に頼んであるから」
「え…」
その言葉に誰よりも驚いていたキールは、走りながら色々と考えたが、一番の得策だと考え、そのまま振り返ることなく二人の後ろについていった。

「ブラウン家の嫁、カレン・ブラウン。しかし、元は神武を守る巫女…ですね」
人里から遠く離れた洞穴の中で、土色の人形に羽交い締めされたカレンの状態を冷たい目で緑の長髪の男が呟いた。
それに反応するようにカレンが答えた。
「こんなことをしても無駄よ。私には神武を扱う力もないし、キールがすぐに助け出してくれるから」
しかし、その男には特に動じる事もなく、カレンを背にして洞窟の外に出ていった。
「後は任せる」
その言葉を受けると、土色の人形の背後から、赤いドレス姿の金髪の女性が現れた。
「はい、ミルフォード様」
言葉と同時に方膝を着くと、ミルフォードと呼ばれた長髪の男は一瞬で姿を消した。
「さてと、どうやって力を引き出そうかしら…。確か人間は自分の大事な人が失う前に、思いがけない力を発揮するって聞いたことあるわ」
顎で人差し指と親指挟みながら考え付くと、その金髪の女性はドレスの胸元から茶色のダイヤの形をした石を取り出した。
「な、何するの?」
その光景を真にしながら、カレンは怯えながら聞くことしか出来なかった。
「あんたの息子を目の前で八つ裂きにしてやるよ」
口元には満面の笑みを浮かべながら、そのまま茶色の石を地面に埋め込んだ。
「やめてー!!」
カレンの虚しい叫びが洞窟中に響き渡った。


「キール、こっちだよ」
「なんでお前達が、奴等の居場所を知ってるんだ!?」
森のなかを3人が走るなか、キールはコリーに質問を投げかけた。
その質問にすぐに答えなかったが、一息入れてコリーが答えた。
「だって、俺たちはずっとアーロンと共に奴等の居場所を探していたからね。でも、その話をしたら、絶対キールは行くって言うだろ?奴等の狙いは君の奥さんと俺たちの持ってる…」
走りながら話すなか、先頭を走っていたアーロンが立ち止まった。
「この話はまた後で。着いたみたいだよ」
森から出ると辺り一面に海が広がる場所に着いた。
砂浜はなく、自分たちの足元は一歩間違えば落下する断崖絶壁の場所。
「あそこだよ」
コリーはキールに洞穴を指差すと、そのまま先程の勢いで向かっていった。

「大変なことになったの」
「パパとママは~?」
キールの家から大分離れた場所にある長老の家でアランを匿っていた。
長老自身は落ち着きもなく、家のなかを行ったり来たりの繰り返しでアランの質問に返答せずにいた。
「やはり、あの者達にカレンは狙われておったか…」
長老はウロウロしながら、呟いていた。
その光景を見ていたアランはとうとう耐えきれずに大声で泣き始めてしまった。
「ママとパパの所に帰りたい~!家に帰りたい~!」
「こ、これ、静かにせんか…」
急に大声で泣き始めてしまった為、長老自身もどうしていいか分からずにいた。
刹那
長老の床が盛り上がったかと思うと、一気に土色の人形が姿を現した。
「な、何故…?」
しかし次の瞬間には土色の人形が振りかざした攻撃で長老の体は壁に叩きつけられた。

「カレン、どこだ~!」
洞窟内に大声で響くキールの声に反応したのは、土色の人形に羽交い締めされてるカレンの姿だった。
その光景に頭に一気に熱が上がり、腰に巻いてある物を取りだそうとすると、コリーがキールの前に手をかざした。
「あら、意外と感が冴えるのね」
土色の人形の後ろから金髪の女性が現れると、鼻で笑うかのように喋りかけた。
「分かるさ。君の考えることなんて全部ね」
その言葉と裏腹にコリーの額には冷や汗で溜まっていた。
「そうなのね。じゃあ、話は早いわね。貴方達の持ってる神武をこちらに渡してもらうわ。それを拒めば、この女だけではなく、キール、お前の息子を酷い目に合わせてやるわ」
その言葉に目の色を変えると、腰に巻いてあった銃を取り出し、そのまま金髪の女性の額に向かい発泡した。乾いた音が洞窟内に響いた後には、何故か金属音までも響いていた。
「なんで…今、当たったはず…」
唖然としているキールに対し、銃弾の弾で少し頭が動いたが、すぐに向き直ると満面な笑顔で喋り始めた。
「無駄よ。それより今のは反抗という意味に取っていいのね」
金髪の女性は腕をあげ、指で音を鳴らした。
「私の可愛い子分よ、さっさとキールの息子を拐っておいで」
しかし、それから何も反応はなかった。
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