受け継ぐ者たち 外伝
第1章「伝説の戦い」
「今年の村狩人大会の優勝は松葉村で決まりました!」
周りの歓声と共々に司会者が気持ちを高ぶらせながら、声高らかに宣言した。
「それでは、優勝した松葉村に話を伺いたいと思います。今年の大会はいかがでしたか?」
司会者が3人にマイクを向けると、その中から長身の男が一歩前に出て答えた。
「今年も楽に優勝させていただきました。俺達が優勝するのは当たり前なので、特に何も思うことはありません」
その長身の男は無愛想ながらも感想と思われる言葉を発した。その言葉には冷たさを感じるものをあったが、周りの歓声はより一層増していった。

「おー。すごいな」
気の抜ける声を発しながら、テレビを見ている男性。
その男性は今にも眠たそうな表情で横になりながら見ていた。
「また、今年も出なかったの?」
その状況を見ながら、男性の後ろから女性が声をかけた。
「ん?…そうだね」
またもや、気の抜けた声で返答をすると、ドアを何度も叩く音が聞こえた。
「おい、カール・ブライト!いるんだろ?」
声を荒げながら喋る老人の他に複数の村人もブライトの玄関の前に立っていた。
カール・ブライトと呼ばれた男性は、横になっていた体を無理やり起こすように、ゆっくり起き上がり、老人や村人達が立っている玄関に足を運んだ。
「これは村長や皆さん、どうされましたか?」
玄関を開けて、その状況を見てもカールの気の抜けた声は変わらなかった。
それに反するように村長が荒げた声で答えた。
「どうしたかだって?テレビを見なかったのか?」
「あー、ちょうど今、松葉村が優勝したばかりですね」
その言葉に苛立ちを感じてのか、村長の声は益々大きくなっていった。
「ふざけるな!カール、何故毎年大会に出ない?お前が出れば優勝できる確立は上がるんだぞ!!」
「いやー、俺が出ても結局優勝は変わらないですし、動物殺すのあまり好きじゃないもので…」
声を荒げる村長に対し、愛想笑いと気の抜けた声で対応すると、先程までの怒りを通り越して、呆れた表情に急変した。
「カール、お前はあの伝説の3人の1人なんだ。その内の2人は家に居ない上に音信不通状態。後はお前だけが頼りなんだ」
呆れた表情で声が出なくなっている村長に変わり、カールと同い年と思われる男性が村長の前に立ち話した。
カールはその言葉を聞くが、後ろ頭を掻きながら答えた。
「んー、気持ちは分かりますが、俺はパスです。そもそも、俺が伝説の1人って言ってますが、その称号が欲しかったり、村の為にあの化け物を倒した訳ありません」
今まで気の抜けた声を発していたが、段々と真面目な声に変わっていたが、何より村長はその言葉で目が丸くなっていた。
しかし、そんなことはお構いなしにキールは話を続けた。
「村を守るとかそんな大それた役は俺には似合いません。俺はただ、身近な幸せを守りたい。ただ、それだけです」
すみません。と最後に言葉を付けながら村長や村人に頭を下げると、そのまま扉を閉め家の中に入っていった。
あまりにも自然の流れだったので、村人達が唖然していた。
「ふざける…」
その内の1人が我に戻り、再び扉を叩こうとするが、村長がその者の肩を持った。
「止めなさい。無駄です」
首を横に降りながら、村長はキールの家を背に向けて、そのまま振り返ることなく去っていった。
ただ、その顔は先程までの怒りはなく、何かを悟ったような顔つきに変わっていた。

「なんで本当の事を言わないの?」
扉に背持たれているキールの目の前に、声かけたのは、横になっていた時に時に話しかけてきた女性。
その女性は紅色の腰まである髪に、大きなお腹をしていた。
「レイラ…」
キールは先程の気の抜けた声から、今にも消えそうなか細い声で答えた。
「私自身、あの連中に狙われてるので、一時でも離れるわけにはいかないんでしょ?特に今はお腹の子供がいるから、尚更…」
レイラと呼ばれた女性はうつ向きながら喋るなか、キールはそっとレイラの後ろの肩に手を回し、そのまま自分の元へと引き寄せた。
「お前は何があっても俺が守る。どんなことがあっても…レイラとお腹の子供は守る」
「キール…」
刹那
窓ガラスが割れたと思うと、キールの家の床から全身土色の人形が現れた。
「なっ!」
あまりにも唐突なことで目を丸くしたレイラは、そのまま人形の伸ばされた手に腕を掴まれ、その体ごと引き寄せられていた。
しかし、レイラに風が当たったかと思った瞬間、腕を掴んでいた人形の頭は木っ端微塵に飛び散っていた。
窓ガラスが割れてから、全てが一瞬の出来事で、訳がわからずにいたレイラに対し、倒れ行く人形を冷静な目で見送っていたキールの姿があった。ただ、手元には先程までにはなかった星の印が刻まれた銃を持っている姿があった。


数年後ー
「パパー」
そこには、草原の中でヨロヨロしながら、キールに向かって歩く男の子の姿があった。
「おいおい、そんなに焦って歩くと…」
言葉の途中で既に足を絡ませて見事に顔から床に転けた。
その男の子は、初めはよく分からない様子だったが、痛みが体全体に伝わってくると、目から大粒の涙が溢れだして、大きな声で泣き叫んでいた。
「あー、だから言ったのに…」
言葉とは裏腹に、苦笑しながら後ろ頭を掻きながら、座ったまま泣き叫んでいる男の子に近付いて、両手で持ち上げた。
「アラン、痛かったな。次は転けないように頑張ろうな」
優しい口調で、男の子アランに声かけると、そのまま肩車して、家の中に入っていった。
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