ポンコツ同盟

部活着の入ったバッグを持ち、グラウンドに行く途中の渡り廊下を走っていると、ピアノの音が聴こえてきた。

「あ…」

一瞬立ち止まってしまい、いいな…という気持ちが芽生える。聴こえて来るのは主旋律のみの下手くそな、かえるのうただった。下手くそすぎて吹き出したが、すぐに頭をぶんぶん振り、部活のことに切り替える。

「やべ!早く行かなきゃ!」

平井はもう着替え終わっているだろうか。

俺は部室に走る。


それから何日かに1回、部活前の渡り廊下で、下手くそなピアノが聴こえてきて、俺は思わず微笑んだ。

「平井、先に部室行ってて。」

「…おう?最近やる気ないのか?サッカーバカ桜庭。」

「ちがう!やる気は満々!やる気を最高潮に高めてから向かう!」

「ま、いいけど。先着替えてるぞ。」

いつしかそのピアノの音が俺の楽しみになっていた。かえるのうたとか、ドレミの歌とか、きらきら星とか、小学生でも弾ける初歩的な曲を、伴奏なしの主旋律のみ弾いている誰か。ピアノの音、やっぱり好きだ。

音楽室のピアノ、勝手に弾いてもいいのかな。

…誰にもバレなければいいかな?

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